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Remember today. Heiji-9

「調べた事、なあ」
「あん? もしかして、まだ、何も調べてねーのか? あれだけ時間があって」
 ここぞとばかりにまくし立てた工藤に、俺は、すいっと眉を寄せた。

 頭は回り始めたようやけど、機嫌はあんまりようないなあ。
 ちゅうか、なんか、わざわざ、避けとる話題があるみたいやし……。
 ちらりっと、工藤を見やるとむすっとした表情で、腕組みしている。

 いったい何やねん――。

 工藤が、さっきまでの俺の不自然な行動に気ぃついとらんかったのと同じで、俺も、なんや勘がにぶっとるのやと思う。けど、そのほうが工藤にとっては都合がええ見たいやから、俺は工藤の不機嫌な理由は突っ込まないことにした。
 けど。
 工藤の質問には、答えんわけにはいかんかった。
「あれだけってなあ。そんなに、時間あらへんかったで?」
「よく言うよ。よくよく考えたら、最初に部屋に戻ってくるのも遅かったし、俺が風呂入ってた間だってあったわけだろ?」
「あのなあ。どっちにしても、たいした時間やないやろ。今、俺がここにおるちゅうことは、外には調べにいってへんっちゅう証拠やないか」
「別に、外に出なくたって、調べられるだろ?」
 ふんっと、鼻を鳴らしながら言った工藤に、俺はまいったというように、天井を見上げた。
 まあ、依頼の話をしてしまった以上、調べ始めたネタを隠す気はない。
 というか。
 そんな事ぐらい、工藤も分かっているだろうに。
 よっぽど、元の話には、戻しとうないねんなぁ。
 ま、ええけど。
「ちゅうか、ホンマに、まだ、ほとんど分かってへんのやけどな」
「ほとんどって事は、少しは分かってるんだろ?」
「う~ん」
 もともと分かっとるゆうても、1ヵ月半ぐらい前に、このへんで何かがあった、ちゅうことだけなんやけど……。
 それだけ話しても、納得せえへんやろし。
 仕方なく、俺は最初から話すことにした。
「工藤も見たっちゅう、あの光やけどな。何やと思う?」
 自分でいれた茶をすすりながら、俺は工藤をまっすぐに見やった。
 質問の意図が分からないのか、工藤は戸惑ったような表情を浮かべた。だが、それは一瞬のことで、すぐに気を取り直したように口を開いた。
「何って――。車のヘッドライト、とか?」
「いや。それは、ありえへんのやて」
「なんでだよ」
「道路は一段下がったトコにあるらしゅうてな。たとえ、車が通ったとしても、ここから光が見えるはずあらへんのやて」
「……だから、幽霊だって言いたいのか?」
 口を尖らせながら言った工藤に、俺は、思わず笑い声を上げた。
「んだよ」
 不服そうな工藤の声。
 きっと、俺が手の内を全部、曝しとらんとか、いろいろ考えとるのやろなあ。
 よくもまあ、そこまで、先読みして考えられるものだと、感心してしまう。
 まあ、そんなことを口に出そうものなら、絶対に蹴られるやろうけど。
「そんな事、ゆうてへんやろ。ただ、車のライトやないのは、確かやちゅう事や」
「確認したのか?」
「それは、これからやけど」
「ふん。自分で見てねー事は、信じられないな」
「そういうと思うた。せやから、おばちゃんに、マップと懐中電灯、借してもらうことになっとるし」
「……懐中電灯、ね」
 ぽつりと言った工藤に、俺は首をかしげた。
「懐中電灯がどうかしたんか?」
「俺が寝たら、1人で行くつもりだったってか?」
「うっ」
 ぎろっと睨まれて、俺は思わず引きそうになった俺は、慌てて手に持っていた湯飲みをテーブルに置いた。
「ふうん」
「し、しゃあないやろ! 一応、工藤には内緒にしとくっちゅう話やったんやから」
 そう。
 なし崩しに、依頼の件をしゃべってはしまったけれど。
 気づかれないうちに、この件を片付けてしまえれば、それでよかったのだから。
 まあ、どっちにしても、無理だったとは思うが。
「せやから、すまんて、ゆうとるやん」
「よく言うよ。今、始めて謝ったくせに」
「あーもう、揚げ足とるんやない」
 さっきまでの、あの奇妙な反応がないから、まだええっちゃええけど。
 いきなり回復されても、こっちが対応できんっちゅうの。

 まあ――こっちの工藤のほうが、やりやすいっちゃやりやすいけどな。

「で? その幽霊の噂って、いつ頃からあるんだ?」
「1ヶ月ぐらいまえから、やて」
「――1ヶ月か」
「しかも、その噂は、街の方から出とるようなんや。タクシーの運ちゃんとか、みやげ物屋とか」
「目撃情報は?」
「特になし。ちゅうか、よほどの物好きやない限り、幽霊が出る廃屋言われたら、近寄らんやろ。それでのうても、何かが出ても可笑しゅうない暗さやしなあ。依頼してきたおばちゃんかて、ホンマには見てへんのやし」
 言いながら、ちらりっと外を見やる。
 今は、光は見えなかった。

 この奥には、廃屋以外は特に何もない。
 ただ、隣市から抜けてくる国道はあるにはあるし、その途中には、確か湖があったけれど、それだけだ。
「要するに、俺らが目撃者っちゅうわけや」
 にやりっと笑いながら言った俺に、工藤はふんっと鼻を鳴らした。
「で? お前はどう見てるんだ?」
「まさか、ホンマに幽霊がおるわけあらへん。やったら、何で光が見えるか――」
「誰かがそこに居るから」
 言おうとした言葉を、工藤に取られた。
 けれど、悪い気はしなかった。
「そういうこっちゃ」
「問題は、誰が居るかってコトか」
 ぼそりっと呟いた工藤は、何やら真剣に考えているようだった。
 そして、ふと思いついたように口を開く。
「なあ。女将に古い新聞、借りられないか?」
 そんな工藤の言葉に、俺はうっすらと口元に笑みを浮かべた。

 やっぱり、工藤や。
 考えることは同じやねんな。

「それはもう、調べたで」
「へえ~。やるじゃん」
 少し驚いたように言った工藤に、俺は満足した。
「で? 何か手がかりはあったのか?」
「1ヶ月半くらい前に、警察がこのへん一帯を事情聴取して回ったらしゅうてな」
 そこで一旦言葉を切った俺に、工藤はむっとしながら口を開いた。
「んだよ。思わせぶりなコト言ってねーで、さっさと本題に入れよ」
「ホンマに、堪え性のないやつやなあ」
「てめーも同じだろうが」
 口を尖らせながら言った工藤に、俺ははははっと笑い声を上げた。
 まあ、確かに、逆の立場におかれたら、俺かて工藤を問い詰めるやろしなあ。小さく息をついた俺は、切り抜いてきたいくつかの記事を机の上に並べた。
「とりあえず、その1ヶ月半より前に、警察が大掛かりな捜査をしそうなヤマに絞って調べてきた」
 無言で新聞の切抜きを手に取った工藤は、それらにゆっくりと目を通し始めた。
 俺はといえば、いささか緊張しながら、工藤が口を開くのを待った。
「ふうん。で? お前はどう思うんだ?」
「予断は禁物やけど――」
「この記事か?」
 ぺらりっと、工藤が持ち上げた記事は、俺が目をつけたものと同じだった。
「やっぱり、工藤もそう思うか?」
「これぐらいしかねーだろ」
 言った工藤に、俺は、嬉しくなってコクコクと首を立てに振った。
 工藤が手にしていたのは、6月初旬の記事で、隣市で銀行強盗があったと言うものだった。
 強盗犯が使用した盗難車は、この奥にある湖のほとりに、乗り捨ててあったらしい。このあたりの地理に詳しいわけではないから、はっきりとした事は言えないけれど、強盗犯がこのあたりを通った可能性は否定できないわけで。
「まあ、とりあえず、あの廃屋を調べに行くか」
 手にしていた記事を、テーブルに戻した工藤は、言いながらすくりと立ち上がった。
 これで、おかんにどやされる事は決定やな。
 そんな事を思いながら、俺は小さく肩をすくめた。




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