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Remember today. Shinichi-7

「んー?」
 返事をしながら、服部がちらっと俺方を見た。が、曖昧な笑みを浮かべて、ふいっと前を向いた。
 その仕草は、なぜか俺に昼間のコトを思い出させた。

 あのときは、話しこんでいたから。だからこちらを向かなかった。
 でも、今のは――。

 意識的に俺を見ないようにしているように思えて、もやもやとしたものが生まれた。
 沈んでいくようなキモチに、ゆらゆらと団扇を動かす速度が遅くなる。
 なんとなく見ているのが嫌で、俺はふいっと窓の外へ目を向けた。
「――で? 風呂、どうやった?」
 声をかけられて、仕方なく服部の方を向いた。
 服部は普通に、俺を見ていた。
 ただそれだけのことに、心臓が飛び跳ねた。
 見られたら見られたで、妙に恥ずかしい。
 誤魔化すように、俺は慌てて止まりかけていた団扇を煽いだ。
「ん。なかなか良かったぜ」
 素直な感想を述べると、服部が嬉しそうに笑った。
 お前を褒めたわけじゃねーのに。
 そう思いながらも、笑顔につられて、笑みを浮かべそうになる。
「そうかぁ。ほんなら俺も後でもらお」
 そう言った瞬間、俺に向いていたはずの視線が、ふいっと脇にそれた。

 ――今の、なんだ――?

 一瞬目が鋭くなり、遠くを見た。
 目にしたことのある表情に、警鐘がなる。
 見たのは、いつ?
 考えて、たいてい事件の時だと思い出す。

 ――なにか、あるのか?

 直感だった。けれど、たぶん外れてはいない。
 こちらを見ているようで、遠くを見極めようとする視線。心の一部が、どこかへ飛んでいるような。それは、俺のキモチを、ざわつかせるのだ。
 勘が告げる。なにかある、と。

 服部はどこを見ていた?
 俺の、後ろか――?

 ――あ。
 
 俺の後ろと言えば、光が見えたあたりだろう。
 まさか、服部も見たのか? それとも、何か知って――。
 確かめてみる……か。

「なあ服部」
 声をかけると、服部はびくっと身を揺らした。
 何をそんなに驚くことがあるのだろう。別のことを考えていたからじゃないのか。疑念が強くなる。
「んー? なんや?」
 服部はとぼけた声で返事をした。その声が、逆に怪しいというか。
 すうっと目を細めて、服部を見やる。
「――お前、なんか、隠してるだろ」
 に、と口元に笑みを浮かべながらも、鋭い視線で服部を捉え、質問ではなく断定の言葉で服部の反応を窺う。
 一瞬、服部の視線が揺れた。もちろん見逃さない。
「へ? 別に、なんも隠してなんかおらへんで?」
「ホントにか?」
「ホンマやで」
 即答した服部がにへらっと笑って頬をかいた。
 あくまで何もないと言うらしい。けれど、服部の態度に、俺の中の疑念が強くなる。
 というよりも、俺に何か隠しているということが、気に障った。
 そうされると、無性に暴きたくなる。
 すくっと立ち上がった俺は、服部の側に寄った。膝をついて座り、下から服部の目を覗き込む。
 視線が合いそうな瞬間、服部がすいっと目を逸らした。
「なら、なんで、目ぇ逸らすんだよ」
「なんでて……」
 むっとして言うと、服部は言葉に詰まった。そろそろと視線を戻すものの、やはりすうっと逃げて行く。
「なんもなきゃ、目を逸らす必要なんてねーだろ」
「せ、せやけど」
 逃すかとじりじり詰め寄っていくと、服部がのけ反った。
 とっさに手を伸ばして、胸元を掴む。
「なんだよ」
「うー」
 唸った服部が、突然頭を抱えた。
「は、服部?」
 一瞬呆気にとられ、踏み込みすぎたかと焦った。だが本当に踏み込みすぎたのなら、もっと態度が違うだろうか。
「なんだよ、急に」
 胸元を掴んでいた手を離して、声をかける。
 相当困っているのか、変わらず服部は頭を抱え続けていた。

 コイツはそんなに悩むようなコトを隠しているのか? ――俺に対して。

 そう思うと、なにやら苛立ってきた。
 自分のことを棚上げにしているのは分かる。
 だが我が儘といわれても嫌なのだ。訳の分からない淋しさにおそわれて。
 先ほどの、この部屋に入ってきた時のことといい――。
 追及の手を緩めようという気がおきない。
「――服部。なんかあるんなら吐いちまいな」
 顔を寄せて、命令するように言う。
「せ、せやからっ。ちょ、工藤、待って――だー、もう!」
 叫ぶように言った服部は、俺の両肩に手をおくと、突き放すようにぐっと押し返した。
「わ!」
 突然のことにバランスを崩して尻もちをつく。
 驚いたように顔を上げた服部は、慌ててすまんと頭を下げた。
 そのまま項垂れて、盛大なため息をつくと、がっくりと肩を落とす。
 何やらぶつぶつと文句が聞こえた。が、顔も上げず、やけに困り果てている服部の様子に、俺は口を開こうとしてやめた。
 ちくりと罪悪感が胸を刺し、居たたまれなくなった俺はすっと立ち上がると、座卓を挟んで服部の反対側に腰を下ろす。
「――勘弁してぇな、工藤」
 両手で顔をおおい、服部が情けない声で呟く。
 しばらくそのままでいたが、がしがしっと頭を掻きまわすと、ゆっくりと顔を上げた。
「――で? どうなんだ? 服部」
「ったく……。知りたい思うたら止まらんヤツやな、ほんまに」
 じいっと見つめられるのに耐えかねたように、服部がため息をつく。
「ほっとけ。つか、お前も似たようなもんだろうが」
「まあ、否定は出来んけど……」
「やっぱり、何かあるんだな?」
「まさか、カマかけたんか?」
「いや、ほとんど確信してたな」
「ええ? 俺なんかしたか?」
「なんかって――」
 考えてみるが、ほとんど勘だ。
 二人の距離が近いから読みとれるようなもの。そんな感じにしか説明できない。
「ま、お前のことだからな、だいたい分かったっつーか」
 言うなり服部はばったりと机の上に倒れ伏した。また頭を抱え込んでいる。
「お、おい、どうしたんだ?」
 いきなりの変な行動に、思わず首を傾げる。
 服部のつむじに向かって声をかけると、何でもないねん、とくぐもった返事が聞こえた。が、そうは思えず、眉間にシワが寄る。
「おい、服部」
「……気にせんといて」
 ようやく服部が顔をあげた。
 にっかり笑って言うが、なんとなく顔が赤くなっているように見えるのは気のせいだろうか。
「なぁ、なんかお前、変じゃねーか?」
「いや、せやから、気にせんでええんやって」
「そう言われると、気になるんだけど」
「……あ、そや! 茶でも淹れよ。な? 飲むやろ?」
「思い切り話題変えやがったな」
 いそいそと急須をて手に取る服部を、俺はじろりと睨んだ。話をうやむやにしたいようだが、そうはさせない。
「つーか、なに隠してるか、まだ俺聞いてねーんだけど?」
 ぴた、と服部が動きを止めた。
「……素直に誤魔化されといてや」
「やだね。誤魔化されてやらねーよ」
 ふんっと鼻を鳴らすように言うと、服部はがく、と項垂れた。
「――分かった、工藤」
 手の急須をおもむろに置いた服部が正面に向き直る。
 まじめな表情にドキッとしたのを抑えつけて、俺はまっすぐに服部を見返した。





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コメント

えーーーーー!!
ここでーーー!!! ここで切るんですかぁ(泣)

投稿: | 2010年1月18日 (月) 23時24分

コメントありがとうございます。
さて、次の展開はいかがでしたでしょうか。
良い意味で裏切れたら、、、と思っております^^
楽しんで頂けたら、嬉しいですv

投稿: 紫磨 | 2010年1月21日 (木) 23時31分

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